Invisible-中- 部屋に入るなり、鞄を乱暴に床に放り出して碓氷はソファーへと身を沈めた。そのまま自分の目の前の床を指差し、入口に立ち尽くす美咲に指示を出す。 「そこに立って」 美咲は自分の鞄をテーブルの横へ置き、おずおずと碓氷に向かい合うように指定された場所へと立つ。後ろめたさと、何をさせられるのかという不安から視線はどうしても床へと向いてしまう。碓氷が『お仕置き』と言うからには、今までの経験上ほぼ間違いなく情事に関連する事だろうと想定できた。 何か言わなければ――そう思うのに、緊張のあまり喉は凍りついたように動かず言葉を発する事が出来ない。 沈黙を破ったのは、碓氷の一言だった。 「じゃ、まずは服を脱いでもらおっかな」 あまりの衝撃に、美咲はつま先に向けていた視線を目の前へと跳ね上げる。 そこにあったのは意地悪く口角を釣り上げ、それなのにどこか冷たくこちらを見据える男の顔。 「何でもしてくれるんでしょ?折角の機会だし、今日はミサちゃんからしてほしいなぁ〜って思って。あ、ちゃんと指示は出してあげるから安心してね」 「『安心してね』じゃない!そんな事、できる訳がっ……!!」 「呼び出されて一人でノコノコ出て行ったのは誰だったかなぁ?」 「うっ……」 出来る訳がない、そう叫ぼうとしたが言葉尻を遮られ、尚且つそれが正論であるが故に言葉に詰まってしまう。 「その後保健室で、何でもするって言ったのは誰かなぁー。ねぇ、会長?」 「……っ、やればいいんだろ!?やれば!!」 やけになって叫ぶ美咲を眺めつつ、「その通り」と鷹揚に碓氷は頷いたのだった。 靴下脱いで制服のリボン外すくらいならそんなに抵抗ないでしょ、という碓氷の言葉に従い、美咲の今の格好は制服のシャツとスカートという格好だ。確かにここまでなら特に躊躇いはない。 問題は、ここからだ。 体を重ねた事がない訳ではない。既に両手の指では足りないほどの回数を重ねてもいる。 だが、自分から肌を晒した経験はまだない。いつも気がつけば衣類は取り去られており、何かを考える余裕などなかった。 羞恥からくる震えを押さえつけ、スカートのホックをはずしゆっくりとファスナーへと指を伸ばす。ファスナーが下へ引き降ろされるにつれて頬が段々と熱くなり、金具が一番下に辿り着く頃には耳まで熱くなっていた。 「鮎沢、顔真っ赤だよ。耳まで赤くなってる。……可愛い」 「うるさい!!お前は涼しい顔しやがって……!!クソッ!!」 「えー?鮎沢のストリップ見て俺が冷静な訳ないでしょ」 そこまで言うと碓氷は唐突に立ち上がり、美咲の耳元へと唇を寄せる。 「すっごく興奮する」 低く掠れた声で囁かれ、ついでとばかりに耳朶を舐め上げられると美咲の背筋を何かが駆け上がった。思わず目を閉じると、その拍子にスカートを押さえていた手を放してしまい、スカートが床へと落ちる。 慌てて美咲はスカートに手を伸ばすが、碓氷の口付けによってそれを阻まれた。反射的に逃げる舌を絡め取られ、きつく吸い上げられると快楽が体の中心を走り抜ける。そのままやんわりと舌を甘噛みされ、歯列をなぞられた瞬間に美咲の膝から力が抜けた。 ずるずると崩れ落ちる美咲の体を支えつつ、碓氷はやっと唇を解放する。 「あれ、もしかして軽くいっちゃった?」 と意地悪く口角を釣り上げる碓氷の顔を美咲は黙って睨みつけた。 「そんな顔で睨まれても怖くないよ」 そう言って、美咲の目尻に浮いた涙を指先で掬い取って。 「誘ってるようにしか見えないんだけど」 涙で濡れた指先を、ぺろりと舐め上げる。 その所作に、垣間見えた赤い舌先に、表情に。――壮絶な色気を感じた。 それはまるで、美しい獣のような獰猛さで美咲を絡め取る。 たまらない羞恥を感じているはずなのに、躊躇っていたはずなのに。 「続けて?」 碓氷の言葉に、逆らう事ができない。 床に座り込んだままシャツのボタンを外し、腕を抜く。 そのままキャミソールと下着を取り去ると、一糸纏わぬあられもない姿が晒された。 黙って俯くと、窓から差し込む西日に赤く照らされた両膝が目に入る。 羞恥で赤くなっているのか、陽の光で赤くなっているのかわからなくなってくる。 ――まだ、日暮れ前なのに。 普段なら、まだバイトをしている時間なのに。 自分達は今、こんなにもふしだらな事をしている。 いけない事だとは頭で理解できているのに、たまらなく疼いてしまう自分がいる。 俯いて唇を噛んでいると、肩にふわりとシャツを羽織らされた。 そのまま脱力した腕をシャツの袖に通され、抱き上げられて辿り着いたのはベッドの上。 困惑する美咲の目の前に、碓氷の三本に立てられた指が突き付けられた。 「自分で最後まで脱げたから、ご褒美に選ばせてあげる。鮎沢から最後までしてくれるか、別な方法で俺を慰めるか、途中だけ鮎沢がするか。三択ね」 「いや、最初の以外、意味がわからないんだが……」 「質問はなし。どうする?鮎沢が選ばないなら、俺が勝手に決めるけど」 ちょっとふわふわしてうまく回らない頭で美咲は必死に考える。 最後まで自分でするなんて、冗談じゃない。とてもではないが、できるとは思えない。よって却下。 二つ目の「別な方法で碓氷を慰める」も、すごくヤバい気がする。 一番無難そうな選択肢は、三つ目の「途中だけ自分がする」だと思う。 でも……あからさまに無難すぎて怖い気がする。 ちらりと碓氷に目をやっても、その表情からは何も読み取ることはできない。 こうしている間にも、いつ碓氷が痺れを切らして勝手に選択肢を決めてしまうかわからない。 悩んでいる暇などなかった。 「……自分で、途中だけします……」 蚊の鳴くような声で告げたとたん、視界が反転した。 押し倒されたのだ、と気付いたのは碓氷が胸元に顔を埋めた後だった。 胸の頂を舐め上げられ、歯で軽く押しつぶされる。 咄嗟に押し返そうとした腕は捕らえられ、一纏めに拘束されてしまった。 「ん……っ、はっ……あ、やっ……」 鼻にかかったような甘ったるい声が聞こえる。 自分が発しているなんて、信じられないような嬌声が。 咄嗟に閉じようとした腿を膝で割られ、碓氷の体が足の間に滑り込む。足を閉じたくても閉じる事ができない。 つうっと脇腹を指先で撫で上げられ、吐息を漏らした瞬間に激しく口づけられた。 唾液が絡み合う音とお互いの吐息が頭の中に響き渡り、何も考える事ができなくなる。 いつの間にか碓氷もシャツを脱いだようで、肌と肌が直接擦れる事により更なる快楽が呼び起こされる。 自分のものではない少し低い体温、汗ばんだ皮膚の感触。 舌を吸われ、甘噛みされ、どんどん高みへと追いやられていく。 まだ触られてもいない自分の中心から、何かがとろりと溢れてくるのがわかる。 「やっ、も…う、お願い……うすいっ…!!」 直接触ってほしい、そう訴えたくて声を上げた途端、突然碓氷が体を引いた。 驚いて碓氷を見上げると、抱き起こされてヘッドレストに靠れかかるように座らされる。 たったそれだけの動作でも中途半端に追い上げられた身体には刺激となり、美咲は体を震わせた。 そんな様子に気付かないような素振りで碓氷は少し距離を置いて腰を下ろし、じっとこちらを眺めている。 …視線で、嬲られている。 そんな錯覚を起こすほどに強い視線。そして、そんな事に疼いてしまう、イヤラシイこの体。 唇を噛み締めて顔を背け、その感覚を排除しようと努めても蔦のようにからみついて、逃れる事ができない。 必死に押し寄せる感覚と闘っていた美咲は、碓氷の表情に気付かない。 獲物を捉えた肉食獣のような、獰猛な笑みに。 その為碓氷の爆弾発言に、咄嗟に反応する事ができなかった。 「続きは自分でやって見せてよ」 やって見せて、という事は、ここまで追い詰められた身体を自分で慰めるという事で。 それを事もあろうか碓氷の目の前でするという事で。 碓氷の言葉の意味がようやく脳へ伝達され、美咲は動揺した。 「途中だけって、そういう事だったのか!?」 「そ。鮎沢が自分で選んだ選択肢」 「そんな事、でき、ない……」 「できないなら、ずっとそのままだよ。辛いんじゃない?」 「……っ」 羞恥心がなかったわけではない。 いっそのこと穴があったら入りたいくらい、恥ずかしかった。 ――それでも、どうしようもないくらいに体は追い詰められていて、拒む事なんて出来なかった。 そっと秘部へ手を伸ばし、指先を沈める。 碓氷がいつもするように突起部分を摘んでみると、背筋を電流が走る様な感覚に襲われた。 「あぁっ!!」 背筋が弓のようにしなり、頭の中に霞がかかる。 「気持ちいいでしょ?そのまま捏ねるように押しつぶしてごらん」 もう、自分が何をしているのかなんて考えられなかった。 言われるままに押しつぶし、身悶える。 「うぅん…あっ、はぁ……」 「そのまま、ナカに指を入れて動かして。俺がいつもしてる事を思い出してね……そう、上手だよ」 ぐちゅぐちゅという卑猥な音を立てて、ナカを掻き回す。 碓氷は、いつもどんな風にするのか。どうやって自分を追い上げるのか。 記憶の糸をたどり、指を奥へと侵入させた。 けれども、どんなに懸命に指を動かしても普段碓氷から与えられる快楽には遠く。 焦燥感だけが募ってゆく。 昇りつめたいのに、決定的な刺激が与えられないままに熱だけが高ぶってゆく。 もどかしくて、おかしくなりそうな、熱。 知らず涙が溢れ、美咲の頬を伝った。 「ど…して……?んっ…、くっ……」 ひくひくとしゃくり上げながら中を擦り上げていると、沈黙を保っていた碓氷から声をかけられた。 「いきたいの?」 羞恥心など、意識の彼方に放り出していた。 こくこくと頷き、涙で滲んだ目で限界を訴えると碓氷が息を呑む。 「……っ、そんな顔されたら、抑えきかないよ?この後どうなっても知らないからね?」 碓氷が何か言っているが、熱に侵食された理性にはそれを理解する判断力など残っていなかった。 少しでも熱を振り払おうと左右に首を振り、言葉で碓氷に縋る。 「も、むり…っ、お願いだから…!!」 「指を奥に入れて、上の方から押しながらちょっとずつ下にずらしてごらん。ちょっと違和感がある場所があるでしょ?」 「…うん…っ、あ……はっ…」 「そこをゆっくり撫でて、」 もどかしいような快楽が、だんだんと大きな波へと育ってゆく。 「段々強く動かす。左右に揺らしたりしてみて」 熱が、高まる。 「お腹のところが熱くなってきたら、指を曲げてそこを軽く引っ掻いてごらん」 内壁を引っ掻くと凄まじい快感が押し寄せた。 「あっ、やぁっ!!も、いく…っ!!!」 急激にナカが収縮し、目の前が快楽で真白になる。 入れたままになっていた指を自分で締め付けてしまい、美咲はそのまま達してしまった。 |
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(coming soon)